更新日 2013.9.4
株式会社五藤光学研究所が、最初に製造販売したのは「1インチ望遠鏡」だとされています。ところが、この望遠鏡には不思議な謎がたくさんあります。
↑(写真)五藤齊三著『天文夜話・自伝』
この望遠鏡については、五藤齊三氏が昭和54年に自費出版した『天文夜話・五藤齊三自伝』(以下、単に『天文夜話』と記す)に、
「自宅において2~3人の従業員を使って望遠鏡の組立を始めたわけである。最初は日本光学に頼んで、鏡径30mmの単レンズを有効径25mm(1インチ)、焦点距離が800mmにして使った。望遠鏡の架台、三脚の鉄の棒3本は、日本光学工業株式会社の下請けの土浦鉄工所に作ってもらい、筒はボール紙を幾巻にもして端末をサンドペーパーで削り、貼り付けた場所がわかりにくいようにして、その上に白ペンキを厚く塗ってもらった立派な鏡筒を作り、それを筒受け金物にボルトで取り付けるという方法をとった。これらの部品を集めて、はじめは私の家の8畳と6畳の間の襖を取り払って家内一同が車座になって組立てた。」とあります。
紙製の鏡筒をボルトで筒受に取り付けたというのは、本当だろうか。
つぎに、当時の雑誌広告を見てみましょう。1インチ望遠鏡の広告が掲載された最初の雑誌は、前回もお話したように、『科学画報』の大正15年11月号です。それには、「素人天文台用 天体望遠鏡完成」のタイトルで、挿絵の右に「特徴」として、
「1.倍率50倍、庭園用金属製三脚台座付き。
2.レンズは収差極微ならしめんがため、特に光学的理論により計算し、厳密なる試験の結果採用せる純光学的完成品使用。
3.本屈折望遠鏡のレンズ組合せは目下実用新案出願中に係る独特の工作法に依る。
4.サングラスを添付し太陽黒点の観測用として絶好の逸品たらしむ。
5.天頂の観測に使せんがため、台座に特に巧妙なる装置を備へたり。
6.、茶褐色のエナメル仕立てにして、永久に使用するも汚損の憂いなし。」などとあります。
↑(写真)『科学画報』大正 15 年 11 月号の広告
また、挿絵の左側に「定価」として、
「1台 定価金30円也(市内配達無料)、箱代・荷造共金2円、地方運賃先払いで発送します。ただし、サンピラ1枚、50倍用アイピース1個、金属製庭園用三脚つき。」とあります。
掲載された「挿絵」を見ると、鏡筒の取り付けはやはり鏡筒バンドのようです。付属の接眼鏡は50倍ということですから、型式は分かりませんが、焦点距離は16mmであることが分かります。また、太陽黒点観測用にサングラスが付属していたことも分かりました。このように、『天文夜話』と「雑誌広告」の1インチ望遠鏡には、鏡筒の取付け方や色など、微妙な違いがあります。それは、何故でしょうか。もう少し、雑誌広告を見てみることにしましょう。
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