更新日 2013.9.11
財団法人科学知識普及会発行の『科学知識』昭和2年3月号に、やはり1インチ望遠鏡の広告が掲載されています。
↑(写真)『科学知識』昭和 2年 3月号の広告
この広告の「挿絵」を見ると、「鏡筒バンド」ではなく、鏡筒が筒受に直接取り付けられているように見えます。おそらく、ボルトで取り付けられているのでしょう。
広告の右下のところに、「定価」と題して、
「甲号(金属製)金40円也(アイピース微動装置付)。乙号(紙器及び木製)金30円也(レンズ及び能率は前同一)。箱代荷造共金2円、市外(市内の間違い)は配達無料地方運賃先払で発送」とあります。
つまり、『科学画報』の大正15年11月号の広告に掲載された、定価30円の1インチ望遠鏡を「乙号」とし、紙と木製の鏡筒を全て金属製にしたものを「甲号」として、定価40円で新しく製造販売するということです。しかし、この広告だけでは、詳しいことは分かりません。そこで、広告の右下に「説明書贈呈」とあるので、その「説明書」というものを是非見たいものだと思いました。しかし、今から85年以上も前のもので、途中に第二次世界大戦を挟んでいるので、このようなものが残っているとはとても思えません。しかし、手許に実物がない以上このようなものに頼る他ありません。
平成20年の3月21日、長崎県諫早市の古書店がインターネットオークションに、「ヴィナス号天体望遠鏡」という古い望遠鏡のカタログを出品しました。ヴィナス号天体望遠鏡は、科学画報社代理部が『科学画報』の昭和4年頃から1インチ望遠鏡やカリスト号に次いで頻りに宣伝していた望遠鏡です。しかし、広告のどこにも製作会社の名前が出てきません。従って、望遠鏡マニアの間でも、この望遠鏡が五藤光学の製品か否か長い間疑問視されていたものです。もしや、これがヴィナス号の雑誌広告にある「説明書」と呼ばれるものではないかと思い、どうしても手に入れたいと思いました。そこで、当時、新潟県立自然科学館に出向していたK君にお願いして入札してもらいました。これが、ヴィナス号天体望遠鏡の説明書であれば、とても貴重な第一級の資料です。従って、大勢の方が入札するものと予想されたので、K君には必ず落札してくれるよう頼みました。幸い、みなさんはそう貴重な資料だとは思わなかったようで、何とか落札することができました。
一週間ほど経った3月27日に、ヴィナス号天体望遠鏡の説明書が届きました。それは、80年以上も前のものとは思われないほど良い状態のもので、よく今日まで残っていたものだと感心しました。ところが、よく見ると、ヴィナス号の説明書の他に、もう一つ別の説明書が入っています。それが何と、是非見たいと思っていた1インチ望遠鏡の「説明書」だったのです。
↑(写真)1インチ天体望遠鏡の説明書
表紙に、「五藤式天体望遠鏡 説明書」とちゃんと書いてあります。中に「五藤式天体望遠鏡の構造」と題し、対物レンズ、接眼レンズ、サングラス、架台、三脚、接眼部、鏡胴及対物鏡枠、接眼保持部について説明しています。これによれば、接眼鏡は、ラムスデン式で、視野は極めて平坦鮮明の上、金属枠は標準型なので他の望遠鏡にも使用できるとしています。サングラスは、カール・ツァイス式の濃青色で、海軍の六分儀等に使われている高級色ガラスを磨いたものだそうです。三脚は、庭園用三脚型で、足の長さは1m半もあるが、中央からネジで2つに外せるので、携帯と格納に便利だとあります。接眼部の焦点調節は、甲号はラックピニオン式で、乙号は引抜式です。鏡筒は、甲号は金属製、乙号は紙製で共に白のエナメル塗装です。対物枠と接眼保持部は、甲号は金属製、乙号は木製で共に黒のエナメル塗装です。
↑(写真左)五藤式望遠鏡(甲号) ↑(写真右)本望遠鏡の部分品 (乙号)
中に、五藤齊三氏が望遠鏡を覗いている「五藤式望遠鏡」という写真と、望遠鏡の組立方を示す「本望遠鏡の部分品」という写真がありますが、前者の望遠鏡が「甲号」で、後者の望遠鏡が「乙号」です。定価は、表紙にもあるように、甲号が40円、乙号が30円です。これでお判りのように、最初に製造販売した乙号は、鏡筒が紙製だったので鏡筒バンドを用いて筒受に取付け、鏡筒を金属製にした甲号は、ボルトを使って筒受に取付けたのです。また、甲号と乙号では、架台の形状が微妙に異なることに注意してください。乙号は、お椀を伏せたような架台の内側に三脚の足をネジ込みますが、甲号は、円筒形の架台の外側に三脚の足をネジ込み、足の開き具合を調節できるように改良されています。
それでは、ここで2つを整理しておきましょう。
【乙号】
対物レンズ :鏡径30mm、有効径25mm、f=800mm
対物レンズ枠:木製で黒のエナメル塗装
鏡 筒:紙製で白のエナメル塗装
鏡筒の取付け:鏡筒バンド
接眼保持部 :木製で黒のエナメル塗装
焦点調節装置:引抜式
架台及び三脚:金属製で、脚の開き具合は固定
付 属 品:ラムスデン式接眼鏡、サングラス
定 価:30円
【甲号】
対物レンズ :鏡径30mm、有効径25mm、f=800mm
対物レンズ枠:金属製で黒のエナメル塗装
鏡 筒:金属製で白のエナメル塗装
鏡筒の取付け:筒受にボルトで固定
接眼保持部 :金属製で黒のエナメル塗装
焦点調節装置:ラックピニオン式
架台及び三脚:金属製で、脚の開き具合は調整可能
付 属 品:ラムスデン式接眼鏡、サングラス
定 価:40円
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