更新日 2013.9.25
1インチ望遠鏡の「卓上型」に、天頂プリズムを付けるというアイデアはとても良かったのですが、接眼鏡を覗くにはやはり顔を地面近くまでもっていかなければなりません。従って、テーブルの上にでも載せない限り天頂付近の観測は無理です。しかし、屋外で観測する度に重いテーブルを運んでいたのでは、手軽に天体を観測するというわけには行きません。それでは、つぎにどのような手を打ったのでしょうか。
これは、『科学画報』の昭和3年11月号に掲載された1インチ望遠鏡の「卓上型」の広告です。
↑(写真)『科学画報』昭和 3年 11 月号の広告
今度は、「新たに三脚を二段伸野外用とす」とあります。1インチ望遠鏡の「野外用」とは、一体どのようなものでしょうか。残念ながら、広告の挿絵の写真は、最初の「卓上型」のものと同じ写真を使用しているので、この「野外用」がどのようなものか分かりません。
平成23年4月10日の日曜日の午後、K君から電話がありました。何事かと思ったら「ヤフオクに1インチ望遠鏡が出ている。金属製の三脚ではなく、木製の三脚なので甲号ではなく、これまで見たことのない型だ。」というのです。
翌日(11日)、会社に行きヤフオクを見る。確かに1インチ望遠鏡のようだが、鏡筒が黒色で塗り直してあり、三脚の足の取り付け方も独特で、「卓上型」を改良したもののように思いました。
そうこうしている間(14日)に、望遠鏡仲間の盛岡天文同好会のO氏からメールが届きました。「ヤフオクに1インチ望遠が出ているのを知っているか、新普及型五藤式卓上天体望遠鏡だと思うのだが、安く落札できるようであれば自分も入札する。」ということでした。「手強い方も入札しているので、入札をためらっている。」と返信する。
その後、入手しておくにこしたことはないと思うようになり、夜9時半頃、K君に電話して入札してくれるよう依頼し、何とか落札することができました。19日に、物が届いたので詳しく調べてみると、驚いたことに、それが何と1インチ望遠鏡の「野外用」だったのです。先ずは、その姿をご覧ください。
↑(写真)1インチ望遠鏡の「野外用」
厚さ3分(9mm)の杉板で、縦17cm、横90cm、高さ14cmの格納箱に入っており、幸運にもオリジナルのラムスデン式の接眼鏡と六分儀に使われている高級色ガラスを磨いて作ったというサングラスも揃っていました。
↑(写真)格納箱に納めた状態
↑(写真)個々の部品に分解した状態
前の写真の、一番上が紙製の鏡筒、つぎの段の左側の一群が架台の部品。右側が対物レンズ枠と接眼部。その間にあるのが対物レンズとそれを押えるための針金です。下の6本の棒が三脚の足。上下のものをつないで使うので「二段伸」というらしい。因みに、伸び縮みする三脚は「二段伸縮」といいます。
↑(写真)経緯台の架台部
↑(写真)引抜式の接眼部
↑(写真)木製の対物レンズ枠
対物レンズは、鏡径が28mmで有効径が25mmの平凸レンズ1枚で、木製の対物レンズ枠に入れて、針金で押えています。レンズの向きは、『光の鉛筆』の著者で、株式会社ニコンの鶴田匡夫氏によれば、「単色諸収差を低減するには平凸レンズの平面側を物体面に向けるのが最適」だそうです。
↑(写真)ラムスデン式の接眼鏡
上の写真は、接眼鏡を分解したもので、(1)がキャップ、(2)がバレル、(3)が間隔筒、(4)が2枚の平凸レンズ、(5)がレンズ押え環です。(1)(2)(5)は真鍮製で、(3)の間隔筒は何と紙製です。
↑(写真)「甲号」の接眼鏡(左)と「野外用」の接眼鏡(右)
「甲号」に付属していた接眼鏡のバレルは、真鍮の無垢材から削り出していますが、「野外用」のものは、真鍮のパイプにドーナツ状に加工した真鍮の板を嵌め込んで作られています。
↑(写真)格納箱に貼られた銘板
1インチ望遠鏡の「野外用」の格納箱には、このような銘板が付けられています。半円形の独特の銘板で、この3つの凸レンズの中に、[ゼウス][五藤][光学]の文字の入ったマークは、五藤光学の最初のマークです。ところで、この1インチ望遠鏡の「野外用」で、実際に天体を覗いて見たところ、三脚の足が太さが2cmと非常に細いのと、上下に2本つないでいるので、ふにゃふにゃで安定せず、これではとても満足な観測ができません。
先の「卓上型」に倣って整理すると、
【野外用】
対物レンズ :鏡径28mm、有効径25mm、f=800mm
対物レンズ枠:木製で黒のエナメル塗装
鏡 筒:紙製で黒のエナメル塗装
鏡筒の取付け:鏡筒バンド
接眼保持部 :木製で黒のエナメル塗装
焦点調節装置:引抜式
架台及び三脚:木及金属製、三脚は木製二段伸
付 属 品:ラムスデン式接眼鏡、サングラス
定 価:15円
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