連載 星夜の逸品 -児玉光義-

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吉田茂の長男健一氏の愛用した望遠鏡 5/6
~天文家垂涎の名機「ウラノス号」~

更新日 2013.12.4

英文学者 吉田健一

偖、長男の健一は、父吉田茂とその妻雪子(内大臣牧野伸顕の娘で、大久保利通の曾孫にあたる)の間に、明治45年(1912)4月1日、東京に生まれました。父の茂は、当時外交官としてヨーロッパにおりました。母の雪子も出産後茂の元に向かったので、健一は祖父の牧野伸顕に預けられました。大正7年(1918)父に従い青島に行き、その後、パリ、ロンドン、天津、東京を転々として、大正15年(1926)天津の学校から暁星中学に編入し、昭和5年(1930)同校を卒業するとケンブリッジ大学キングスカレッジに入学しました。そして、ウィリアム・シェイクスピアやシャルル・ボードレール、ジュール・ラフォルグなどに熱中しました。しかし、昭和6年(1931)急遽中退して帰国し、アテネ・フランセに入りフランス語を習得しました。昭和10年(1935)になって、ポーの『覚書』の翻訳を刊行し、その後『文学界』に寄稿を始め、中村光夫や山本健吉らと同人誌『批評』を創刊しました。この頃は、主にフランス文学の翻訳や評論を発表し、また、最初の評論はラフォルグを扱ったものでした。
石川淳、大岡昇平、小林秀雄、中村光夫、福田恒存、三島由紀夫、横光利一、丸谷才一などと交友があったようです。また、父と親交が深かった長谷川如是閑の肝いりで、中央大学文学部教授(英文学)を一時務めました。そのためでしょうか、肩書が英文学者となっています。

ウラノス号4型

今回入手した、吉田健一氏が愛用した望遠鏡は、三脚の足が直脚の無伸縮のものであることから、ウラノス号の4型です。学校の備品などと違って、個人で購入し大事に扱われていたようで、非常に保存状態の良いものでした。

(写真)吉田健一氏が愛用したウラノス号4型

↑(写真)吉田健一氏が愛用したウラノス号4型

望遠鏡を収める格納箱は、厚さ5分(15mm)の一枚板で仕上げた、縦21cm、横88cm、高さ19.5cmの立派なものです。4型以外は、鏡筒と架台それに三脚のすべてが格納箱に収められますが、4型だけは三脚が直脚の長いものですから、これだけは入りません。

(写真)ウラノス号4型の格納状態

↑(写真)ウラノス号4型の格納状態

地上用の接眼鏡T30~AH40mm以外の接眼鏡3種、サングラス、ダイヤゴナルプリズム、太陽投映機は失われてありませんでした。しかし、それらは手許にありましたので、それを入れて格納状態を再現しました。

(写真)ウラノス号4型の鏡筒

↑(写真)ウラノス号4型の鏡筒

鏡筒は、外径が64φで肉厚が1.75mm、長さが599mmのアルミパイプで、先端に光軸修正装置、対物レンズ、露帽がねじ込まれています。また、反対側には、接眼部がはめ込まれ、接眼微動ハンドル、ドロチューブ、接眼鏡挿入アダプターが取り付けられています。全体の長さは、ドロチューブを押し込んだ時が826mm、全部引き出した時が956mmになります。

(写真)ウラノス号4型の対物レンズ部

↑(写真)ウラノス号4型の対物レンズ部

対物レンズ部は、対物レンズ、対物レンズ枠、光軸修正装置、露帽、キャップからなっています。対物レンズは、鏡径が58mmで焦点距離が800mmの色消レンズで、重さは85gです。それを、真鍮製の125gの対物レンズ枠に入れ、押えリングで固定します。この対物レンズ枠を、アルミ製の170gの光軸修正装置にねじ込み、先端に露帽を差し込むと図のようになります。露帽は、外径が71.5φで肉厚が1.75mm、長さ110mmのアルミのパイプで、重さは112gです。そして、露帽の先端には、25gの真鍮製のキャップが入るようになっています。

(写真)ウラノス号4型の対物レンズ部

↑(写真)ウラノス号4型の対物レンズ部

ウラノス号の使用説明書には、
「凸凹レンズの合わせ面を清掃する必要に迫られた場合の外、枠より取り出さぬ事。<対物レンズ枠>に於ける<レンズ押え環>の締め加減は映像に重大な影響を与えるからよく注意すること、即ち対物レンズ枠を水平に持って垂直に振って音がせず、水平に振ると僅かにコトコト音がする程度に止めねばならぬ。締め過ぎても緩る過ぎても必ず映像が悪くなる。」
とあります。
鏡筒の対物レンズ部の反対側には、接眼部がはめ込まれています。

(写真)ウラノス号4型の接眼部

↑(写真)ウラノス号4型の接眼部

ウラノス号の合焦システムは、ラック&ピニオン方式ですが、4型から焦点調節ハンドルのところに偏心メタルが使われていて、繰り出し時のぐらつきや硬さなどが細かく調整できるようになっています。また、接眼鏡挿入アダプターは、外側のリングを回して接眼鏡のバレルを締めて止めるチャック方式になっています。焦点調節ハンドルとドロチューブおよび接眼鏡挿入アダプターは真鍮製ですが、その他はアルミ製です。

(写真)ウラノス号4型の架台

↑(写真)ウラノス号4型の架台

ウラノス号4型の架台は、英国式の水平・垂直微動装置付の経緯台です。天体を導入するときは、“高度クランプ”と“水平クランプ”を緩め、鏡筒の端を照準にして行います。また、微妙な調整や天体を追尾するときは、“高度クランプ”と“水平クランプ”を締め、“高度微動ハンドル”と“水平微動ハンドル”を回して行います。
“高度微動ハンドル”の半回転は、角度の約15分に相当し、約25°の広範囲を動かすことができます。また、“水平微動ハンドル”の半回転は、時角の約4分で、全周を無制限に回転することができます。
つぎに、三脚ですが、何故かウラノス号の4型だけが無伸縮の直脚になっています。ウラノス号の使用説明書には、「三脚は先端を線で結んで正三角形になるようにし、且つ一辺の長さを90cm位に開いて用いる。また、コンクリートや固い床の上では脚が滑り望遠鏡を倒すことがあるから、丈夫な紐で脚の中頃を縛り開き止めを行えばよい。」とあります。
ウラノス号の5型からは三脚の開き止めが付けらてましたが、これまで何故付けられなかったのでしょうか。それは、下記の理由によります。
上記の使用説明書に、「独りで観測する時は、腰掛に掛けて目標の高さを調節すると楽である。」とあります。

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