連載 星夜の逸品 -児玉光義-

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吉田茂の長男健一氏の愛用した望遠鏡 6/6
~天文家垂涎の名機「ウラノス号」~

更新日 2013.12.11

ウラノス号4型の付属品

ウラノス号4型の標準付属品は、天体用接眼鏡<GOTO KOGAKU>と彫刻された、HM6mm、HM12.5mm、HM25mm、AH40mm、地上用接眼鏡T30mm、ダイヤゴナルプリズム(天頂プリズム)、サングラス、太陽投映機などです。
地上用接眼鏡「T30~AH40mm」は、全体としては焦点距離が30mmの地上用接眼鏡です。しかし、一部を組み替えることによって、8倍の拡大鏡として使うことができますし、また、アクロマート・ハイゲンの40mmとしても使うことができます。

(写真)地上用接眼鏡を拡大鏡とAH40mmにする方法

↑(写真)地上用接眼鏡を拡大鏡とAH40mmにする方法

拡大鏡にするには、上の写真の上段の状態のものから⑥だけを外し、物体から15mm前後の距離にして①の方から覗くと、ちょうど8倍の拡大鏡になります。
また、AH40mmの天体用接眼鏡として使うには、上の写真のように、⑤から③を外し、さらに②から③を外します。すると、③にねじ込まれた④が現れますので、③から④を外します。すると、上の写真の中段のようになります。つぎに、③を除外して、②に④をねじ込みます。すると、上の写真の下段のようになります。こうすることによって、AH40mmの天体用接眼鏡として使うことができます。
地上用接眼鏡「T30~AH40mm」の光学的性能は、
・焦点距離:30mm、 実視界:1°、 光明度:4.1
 1000mにおける視野は約18m。
また、AH40mmの天体用接眼鏡として用いた場合は、
・焦点距離:40mm、 見掛けの視界:26°
 実視界:1°18′、 射出瞳孔径:2.7mm。
です。

(写真)いろいろな用途に使える太陽投映機

↑(写真)いろいろな用途に使える太陽投映機

五藤光学の専売特許だった「太陽投映機」は、実に様々な用途に使うことができます。
≪太陽投映法≫
望遠鏡を太陽の方に向け、接眼鏡の代わりに太陽投映機を挿入して、太陽像を壁やスクリーンに投映します。すると、太陽黒点の暗部や半暗部、エラプション、ダークフィラメント、粒状班、白斑などを見ることができます。投映距離は3mで400mm、5mで660mm、7mで930mmの直径の太陽像を得ることができます。このときの倍率は、太陽の直径を2.4mmで割ることによって得ることができます。
≪顕微鏡幻燈法≫
顕微鏡像を投映するには、光源として太陽像を使います。太陽投映機の「プレパラート挿入孔」にプレパラートを入れクレンメルで固定します。そして、「投映レンズ筒」を支えながら「プレパラート焦点調節環」を静かに回してピントを合わせます。こうすることによって、植物の花粉や組織の断面、微小な昆虫の器官、動物の解剖標本などを拡大投映して見ることができます。
≪シュリーレン法の実験≫
投映距離が5m位の場合、投映機から1~2mのところで光路を妨げるように手をかざすと、「スクリーン」の太陽像の中に手の影が映ります。その時、体温により手から生ずる上昇気流が陽炎のようにユラユラと映ります。また、熱湯の入った缶や、火のついたロウソクなどを光路内に入れると、物凄い上昇気流が鮮明に映ります。このように、極めて高級な設備を必要とする流体力学のシュリーレンの実験を、簡単に行うことができます。
≪接眼鏡への代用法≫
太陽投映機を「プリズム面」から覗くと、接眼鏡として倍率13×、射出瞳径4.2mm、実施界1°30′の極めて明るい視野が得られます。星雲や星団、彗星の捜索などに威力を発揮します。また、プレアデス星団を包む星雲物質や半月時の地球照さえ微かに認めることができます。また、上から覗けば、左右は反転しますが、地上用接眼鏡にも代用できます。
≪「反射プリズム」の用法≫
「反射プリズム」は、サングラスと同じようにどの接眼鏡にも使うことができます。「AH40mm」や「HM25mm」などのキャップを外して取付け、太陽投映機に代用すると、近距離で拡大率の大きい投映ができます。そこそこ完全な暗室では、約4000倍(太陽直径10m)以上の驚異的な拡大像が得られ、太陽黒点の細部が明瞭に観察できます。

(写真)天体用接眼鏡K25mmに取り付けた「反射プリズム」

↑(写真)天体用接眼鏡K25mmに取り付けた「反射プリズム」

おわりに

このウラノス号4型は、昭和20年代に、吉田健一氏が銀座の松島眼鏡店から購入したものです。そして、どのような不具合があったのかは不明ですが、昭和35年10月3日~8日まで五藤光学に修理に出しています。当時、組立二課の芝山幹夫課長の下で天体望遠鏡の組立を担当していた、福田昌治が修理したことが「修理票」から分かります。
ところで先日の夕方、西空に金星が輝いていたので、久し振りに、このウラノス号4型をベランダに出し、友人からいただいた、五藤光学製のK25mmとK12.5mmの古い接眼鏡のテストを兼ねて覗いてみました。25mm 32×で導入し、12.5mm 64×にして半月形の金星をしばし楽しみました。

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