連載 星夜の逸品 -児玉光義-

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里帰りした「組立キット」 1/5
~五藤式40×~80×天体望遠鏡「組立キット」~

更新日 2014.2.5

海外から来たメール

平成20年(2008年)2月12日。当時、株式会社五藤光学研究所に勤務していた私は、同社のテクノ・カンパニーで業務を担当していたSさんから、つぎのようなメールをもらいました。
「下記、スエーデンからのメールの問い合わせを転送いたします。
かなり古い物のようですが、(説明書に世田谷区の住所が記載されています。)
これらの望遠鏡の工作キットがヨーロッパに輸出された時期がいつ頃かおわかりでしょうか?
このお客さんは、このキットを義父(1918年生まれ)より譲りうけたようです。
オークションか何かに出すつもりでしょうか、価値があるのか?と尋ねています。
何かご存知でしたら教えて下さい。」
そして、つぎのような写真が添付されていました。

(写真)メールに添付されていた写真3枚

↑(写真)メールに添付されていた写真3枚

さらに、Sさんのメールには、最後の方に問い合わせの原文が添付されていました。それによれば、スエーデンのルネ・ヨハンソンさんという方からで、「最近、屋根裏部屋からGOTO OPTICAL MFG. CO. Japan.のロゴと、天体望遠鏡の作り方という説明書の入った一つの箱を見つけました。それは、一度も使っていない新品のようです。このキットはいつ頃ヨーロッパに輸出されたのでしょうか? 箱と説明書には何の記載もありません。どのような価値のものかご存知ですか?この箱は、1918年生まれの義父からもらったものです。残念ながら、生前義父から何も聞いていません。何かご存じでしたら教えてください。」という内容です。
この写真を見て、すぐに正体が分かりましたので、その日の夕方に早速、Sさんに返信しました。

(写真)昭和29年の『子供に科学』に掲載された広告

↑(写真)昭和29年の『子供に科学』に掲載された広告

(写真)昭和29年の『光学タイムス』に掲載された広告

↑(写真)昭和29年の『光学タイムス』に掲載された広告

「S様: これは、五藤式40×~80×天体望遠鏡「組立キット」または「組立セット」と呼ばれるものです。
昭和29年(1954)の『子供の科学』や『光学タイムス』に広告が出ているのが最初のようです。当時の定価は、3,000円です。
因みに、『子供の科学』では、天体望遠鏡「組立キット」、『光学タイムス』では「組立セット」になっています。
私が中学生の頃、友人が父親から買ってもらったものを見せてもらった事がありますので、昭和34年(1959)ごろまでは作られていたと思います。
従って、1955年前後数年間製作されたもので、価格は3,000円でした。と答えてはいかがでしょうか。
もし、売ることを考えているようでしたら当社で引き取りたいので、希望価格を知らせて欲しい、と伝えて下さい。
それにしても、完全な状態で保存されているのには驚きます。海外の方は、物を大事にしているのですね。昨年の暮れに、米国のオークションで、当社が1950年代に輸出した望遠鏡用のアイピースが、送った時のボール紙の箱もそのままの状態で、いくつも出品されていました。
児玉」
すぐにSさんから返信があり、
「児玉さま
ご丁寧なご回答ありがとうございました。
さっそく、譲ってもらえるかどうか問い合わせてみます。」
ということでした。
翌13日に、再びSさんからメールがあり、
「児玉様
昨日のスエーデンの方よりのメールを転送します。
彼は偶然にも1955年生まれで天文少年だったようです。15歳の時ドブソニアン用に15cmのミラーを磨き、まだ使っているようです。
天文キットについては、やはりオークションに出したかったみたいです。しかし五藤が買ってくれるというのであれば喜んで!と言っており、いくらで買ってくれるの?と尋ねています。
レンズとアイピースには、まだビニールがかぶっており重量は、800gほどだそうですがさらに二重梱包にする必要があり、それを考えると郵便による送料は、約4,060円ほどだと言っています。もし、買い求めたい金額があればご連絡ください。」
ということでした。
そこで、
「S様:
ここは非常にむずかしいところです。あまり安く言っても先方ががっかりするだろうし、かと言ってそう高いものでもありません。
せいぜい日本円で○○円程度のものと思われますが、五藤光学で引き取るということで、送料別で2倍の○○円でいかがでしょうか?
と答えてみて下さい。
児玉」と返信しました。
すると、15日にSさんからメールがあり、
「児玉さま
望遠鏡製作キット買取りの件、US$○○○(送料込み)で快く承諾してもらえました。
送金手続きについて、伝票の記載はどのように行いましょうか?」ということでした。
そこで、代金の支払い方法などを指示し、送金手続きに入っていただきました。2月21日に送金していただきましたが、送金手数料が4,000円、支払銀行手数料が3,000円で、手数料だけで7,000円もかかり、海外にちょっと送金するだけで意外とお金がかかることを知りました。それからしばらくして、その「組立キット」が届きました。こうして、五藤式40×~80×天体望遠鏡「組立キット」が、50数年ぶりに日本に里帰りしたのです。

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