更新日 2014.2.12
今から60年ほど前の、私が小学校の高学年の頃です。新任の女の先生が、子供たちが喜びそうな副読本を数種類用意して、自分の好きな本を一冊選んで注文するようにということでした。私は迷わず、機関車の絵の表紙で横長の、科学的な内容の本を選びました。
しばらくして、その本は届きましたが、教科書とは違って、わくわくするような内容の本でした。星空の中に、星雲とか星団のあることを知ったのもこの本です。それはそれは、衝撃的な出来事でした。そして、望遠鏡があれば、それらを見ることができるのだと思うようになりました。しかし、僅かばかりの小遣いでは、いくら貯めてもとても望遠鏡は買えません。
ところが、この本の最後の方に、老眼鏡を使った天体望遠鏡の自作の方法が、図入りで詳しく説明されていたのです。何とか自分にも作れないかと、何度も何度も読み返しました。それからしばらくたったある日、学校帰りに意を決して町の眼鏡屋に飛び込みました。そして、対応に出た店の主人に例の副読本を示し、ここにあるような老眼鏡が欲しいのだがと説明しました。すると、主人が言うには、今は以前のような丸いレンズのものはなく、みな四角っぽいレンズになってしまって、望遠鏡に使うには不向きだということでした。そこで、メガネのレンズを使った望遠鏡の自作は、あきらめざるを得ませんでした。
それからしばらく経ったある日、自宅近くの「工文堂(こうぶんどう)」という模型屋さんの店先をのぞくと、青色の小さな函に入った望遠鏡自作用の対物レンズが売られていたのです。もちろん単レンズで、直径が40φで焦点距離が600mmでした。早速、購入して望遠鏡を自作することにしました。
当時、近くに「ブリキ屋さん」というのがあって、店先で、金槌と半田ごてを使って、雨樋(あまどい)やバケツ、ジョウロなどを作って販売していました。今で言うところの実演販売ということでしょうか、その器用さに感心して、学校帰りに時間を忘れて眺めたものです。
そこで、このブリキ屋さんにお願いして、鏡筒にあたる太いパイプと、ドロチューブにあたる細いパイプを作ってもらいました。対物レンズ枠と接眼部は、ボール紙を何重にも巻いて作り、鏡筒に差し込みました。筒内絞りはうまく作れなかったので、内側に黒のラシャ紙を貼って、筒内反射を止めることにしました。接眼レンズは、確かラムスデン式のものだったと思いますが、トタン屋さんでドロチューブに入る短い筒を作ってもらい、やはりボール紙でレンズを押えて作りました。こうしてできた、口径40mm、焦点距離600mmの鏡筒を、塀に載せて月や星々を覗きました。色収差で月の周りは紫色になりましたが、クレーターがはっきり見え感激しました。
これに気を良くして、すぐに口径80mm、焦点距離1,200mmの望遠鏡を作りました。もちろん単レンズです。しかし、今度は経緯台の三脚も作りました。三脚の足を取付けるボルトと蝶ナットは、郊外の鍛冶屋さんにお願いして、特別に作ってもらいました。この時、大きなダイスでねじを切ったり、大きなタップでねじ穴を作ったりする方法を知りました。まだ子どもだったためか、ブリキ屋さん、鍛冶屋さんには、格安で作っていただきました。
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