連載 星夜の逸品 -児玉光義-

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『現代天文学事典』誕生秘話 6/13
~現代天文学の一大体系の編纂を目指す~

更新日 2014.4.16

8月19日、朝9時起床。今朝もまた雨で、オーバーを着なければ震えるほどの寒さです。11時に宿を出て、絵葉書などを買いながら街を歩き、12時過ぎにハウプト駅に着きます。レストランで昼食を済ませ、1時45分発のミラノ行きの列車に乗り込みました。列車は、やや遅れて1時50分に発車し、大きな半円を描いて南下します。チューリヒ市街の地下を貫くトンネルを出るとチューリヒ・エンゲと呼ばれる小さな駅に停車、さらにトンネルを抜けると左側の窓は一面に満々と水を湛えたチューリヒ湖です。模糊として雨に煙る湖の景色はまた格別で、水の色は緑に少量のミルクを混ぜたような色です。
列車は湖岸に沿って南下し、ツーク湖の北端ツークの町やアルトの町を通り、ロイスの渓谷に沿って遡ります。そして、グラウビュンデン地方からワリスを通りジュネーブに至る東西の路線と、チューリヒからミラノに南行するこの列車の路線とが、サンゴタールドの山上アンデルマット駅で十字に交差します。しかし、それは地図の上でのことで、今先生たちが通過しているのは、アンデルマットの直下330メートルの地底サンゴタールドトンネルで、通過するのに13分もかかりました。
5時30分、ベリンツォナに着きます。ここは、マジョーレ湖にそそぐティチーノ川の下流が作る平野マガディーノの中心地で、ロカルノ行の路線の分岐点です。ヴェデッジオの流れに沿って下ることしばらくして、やがて一山越えればルガーノ湖畔に絵のようなルガーノの街が連なっています。6時半、ルガーノ駅に着きました。ルガーノの町は、人口約12,000、ヨーロッパでは最も有名な避暑地の一つで、各国から客が集まる、いわばホテルとレストランで成り立っているような町です。二人は、しばらくここに泊まることにしました。8月20日、ベルリンを出てからちょうど一週間、旅の疲れが積もったためか、ぐっすりと眠って、目が覚めたのは9時半でした。急いでサロンに行き朝食です。
香り高いコーヒーとパン、それにバターもジャムも蜂蜜も、流石は本場のスイスだけあってとても美味しいです。ホテルの庭は湖の浜で、カラリと晴れた初秋の空の下、赤い大きなパラソルのもとにテーブルがあり椅子があります。そこにダラリと身を任せて国へ絵葉書でも書こうかとペンを執って見るのですが、うららかな陽の光に身も心も溶けて行くようで、筆の運びも遅々として進みません。
ルガーノの湖は、エメラルド色に澄み透って、対岸までは2.5キロもない位で、急峻なモンテ・ブレの山が巨大な釣鐘を伏せたように、岸から垂直に聳え立ち、その麓から中腹まで点々と木の間隠れに建った赤い屋根の美しい家、それが色とりどりの影をエメラルド色の湖面に映しています。モンテ・ブレから湖岸つづきに左手に向かって次第に絵のようなルガーノの街が展開し、さてはルガーノ目抜きの湖岸通りのホテル街とその街路樹の鬱蒼たる散歩道まで、正に一幅のパノラマです。先に掲げた荒木先生の描いた「ルガーノ湖の絵巻」を見ていただきたいと思います。

荒木俊馬絵:ルガーノ湖の絵巻

↑(写真)荒木俊馬絵:ルガーノ湖の絵巻

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