連載 星夜の逸品 -児玉光義-

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戦前の「コメット号」 2/12
~数奇な運命を辿ったダイアナ号とコメット号(その1)~

更新日 2014.6.18

まだあった単レンズの天体望遠鏡

ところで、『科学画報』の昭和3年(1928)8月号に、科学画報代理部の名前でつぎのような広告が掲載されました。

(写真)『科学画報』昭和3年8月号に掲載された広告

↑(写真)『科学画報』昭和3年8月号に掲載された広告

「天体地上両用望遠鏡」のタイトルで、「最新科学の粋を網羅して新鋭機遂に完成!」とあります。つぎに、「果然、新製機カリストの出現は暴風の如きセンセーションを惹起しました。よくも一台にしてかく万能の機能を発揮したものと内外驚異の的となっています。実に至れり盡せりの装置で、おそらくは現代科学の頂点を示す傑作でしょう。高級付属品の数と価格の低廉は一挙にして世界レコードを屠りあらゆる点に於いて第一線に立っています。」とあります。そして、望遠鏡の写真を掲げ、「倍率五十倍・口径一吋半 新製機カリスト号」と説明しています。
対物鏡は、口径が1吋半ですから38mmで、色消レンズとは書いてありませんし、定価も40円ですから、これは明らかに単レンズです。また、どこにも五藤光学製とは書いてありませんが、付属品に「太陽投映並プレパラート投写機兼用地上接眼鏡」がありますので、これは間違いなく五藤光学製の天体望遠鏡です。何故ならば、太陽投映機は五藤光学の特許だからです。五藤齊三氏が、1インチ望遠鏡の他にもう一つ単レンズの望遠鏡を作っていたのは驚きです。
ところで、この広告には、対物レンズの焦点距離が示されていません。ただ、倍率が50倍とあるだけです。従って、何ミリの接眼鏡を使ったときの倍率かも分かりません。ところが、五藤齊三氏はこんなことを考えていました。
最初、口径1吋や1吋半の単レンズの望遠鏡を購入したユーザーが、後で色消レンズの対物鏡だけを購入して交換すると、何と色消レンズの望遠鏡にすることができるというものです。そのために、単レンズの望遠鏡の鏡筒を、後で色消の対物レンズが装着できるようにあらかじめ太くし、対物レンズの焦点距離も800mmに統一していたのです。その呼びかけが、先にウラノス号の広告を紹介した、『科学知識』の昭和3年(1928)4月号に掲載されています。

(写真)『科学知識』昭和3年4月号に掲載された呼びかけ

↑(写真)『科学知識』昭和3年4月号に掲載された呼びかけ

そして、対物レンズの広告は『科学画報』の昭和3年(1928)11月号に掲載されました。

『科学画報』に掲載された対物レンズの広告

↑(写真)『科学画報』に掲載された対物レンズの広告

その中に、口径が1吋半の単レンズで焦点距離が800mmのものがあります。これがカリスト号の対物レンズと同じものだったと考えられます。そうすると、倍率が50倍ということは、焦点距離が16mmの接眼鏡ということになります。しかし、当時16mmの接眼鏡はありません。従って、1インチ望遠鏡の場合と同じように、20mm40倍だったのではないでしょうか。1インチ望遠鏡の雑誌広告でも、倍率が50倍とありましたが、実際は、接眼鏡の焦点距離が20mmだったので倍率は40倍でした。40倍というよりも、50倍といった方がインパクトがあったのでしょう。

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