連載 星夜の逸品 -児玉光義-

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戦前の「コメット号」 4/12
~数奇な運命を辿ったダイアナ号とコメット号(その1)~

更新日 2014.6.25

昭和4年のカタログとコメット号

ところで、手許にあるカタログの中で最も古いのは、昭和4年(1929)に発行された以下のようなカタログです。

(写真)昭和4年発行のカタログ

↑(写真)昭和4年発行のカタログ

天文台のイラストを背景に「五藤式天体望遠鏡 Gotoh Astronomical Telescopes」という見出しで、4インチの重錘式運転時計の付いた据付型の屈折赤道儀の横に、創業者の五藤齊三氏が誇らしげに立っている、青色のお馴染みのカタログです。このカタログは、実に不思議なカタログです。大正15年(昭和元年)の暮れに発売された1インチ望遠鏡は掲載されていませんし、昭和3年に発売された色消レンズのウラノス号の紹介もありません。その代わり、オリオン号やリーラ号といった妙な望遠鏡が紹介されています。
 口径32mm、焦点距離300mmの「オリオン号」
 口径38mm、焦点距離500mmの「リーラ号」
 口径41mm、焦点距離750mmの「コメット号」
 口径47mm、焦点距離800mmの「アポロン号」
この4種類の天体望遠鏡が、詳しく説明されていますが、いずれも対物鏡は二枚合わせの色消しレンズです。
一番小さなオリオン号は、スタンド型の架台でテーブルの上に据えて観測する卓上型の望遠鏡です。つぎのリーラ号は、外国では旅行用とか狩猟用、船舶用と呼ばれる、筒を多段階に伸ばしてピントを合わせる遠眼鏡(とおめがね)式の望遠鏡で、それをカメラ用の三脚に載せたものです。

(写真)左:〔オリオン号〕右:〔リーラ号〕


オリオン号のところには、「此ケプラー式接眼鏡は正立映像を得らるゝものなれば地上風景も亦実距離の三十分の一に引寄せて観望する事を得、旅行遊覧に携帯して大いに其威力を発揮し得らるべし。」とあります。
また、リーラ号のところには、「尚付属の地上接眼鏡は、正式20粍のものにして視野極めて明快25倍の倍率を以て快適なる地上風景を観望することを得べし。付属の架台三脚亦極めて軽快にして三脚は総金属製三段引伸式にして美麗な携帯用木箱に全部を格納する事を得べきに依り旅行に散歩登山に之を携へて出らるれば其愉快は数倍に昇らるゝことを確信す。」とあります。

(写真)左:〔コメット号〕右:〔アポロン号〕


従って、本格的な天体用の望遠鏡は、「コメット号」と「アポロン号」の2機種です。
コメット号には、焦点距離が12.5mmのハイゲン式の接眼鏡が付属していて、十分な条件の下では可視等級10.3等、分離角2.8秒の理論値を満足するとあります。三脚と格納箱以外は全て金属製で、接眼部はラックピニオン式で焦点調節が容易です。三脚の高さは伸縮し、五尺(1.5m)まで伸ばすことができます。付属品は、天体用のハイゲン式12.5mm60×接眼鏡、25mm30×の地上用接眼鏡、サングラス、ダイアゴナルプリズム、木製三脚、格納箱で、定価は55円です。
アポロン号は、『天文夜話』にもありましたのでコメット号とともに、間違いなく、色消の対物レンズを搭載した最初の天体望遠鏡の仲間だったのではないでしょうか。

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