連載 星夜の逸品 -児玉光義-

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前田久吉著『日々これ勝負』6/16
~東日天文館建設の大難関~

更新日 2015.3.18

二・二六事件(1)

『日々これ勝負』には、
「昭和十一年(1936)二月二十六日の早暁、前夜からの雪で一面銀世界と化した東京の街に、風の如く兵が走り、そこに銃丸が飛び鮮血が流れた。午前五時――近く満州に出動すべく待機していた一部青年将校下士卒一千有余名が不意に起こって、剣を執り機関銃を構え、岡田首相邸、斉藤内大臣私邸、渡辺教育総監私邸、牧野前内大臣宿舎湯河原伊東旅館、鈴木侍従長官邸、高橋蔵相私邸等重臣の居場所を、片ッ端から襲撃したのであった。」とあります。
世にいう「二・二六事件」の勃発です。これによって岡田首相は即死(後に存命と分かる)、斉藤内大臣即死、渡辺教育総監は重傷、牧野前内大臣は危険を逃れたが、鈴木侍従長は負傷、高橋蔵相は即死しました。青年将校達の決起の目的は、「内外重大危機の際、元老、重臣、財閥、官僚、軍閥、政党などの元凶を排し以て大義を正し・・・云々」というものでした。
午後には、第一師団による戦時警備が布かれ、「戦時警備の目的は、兵力を以て重要物件を警備し、併せて一般の治安を維持するにあり、目下治安は維持せられあるを以て、一般市民は安堵しておのおののその業に従事せらるべし」という警備司令部の発表がありました。しかし、人々は落ち着かず、夜に入ると人通りはぱったりと途絶え、雪に映える騒擾部隊の剣が不気味に光っていたといいます。
この朝、前田久吉は、けたたましく電話が鳴ってこの知らせを聞きます。そして、運転手に「非常の場合だ、最短距離で急げ、途中呼び止められてもハンドルを放すな!」と言い聞かせ会社に駆けつけました。一歩社内に入ると、ピーンと緊張した空気に宿直員の眉が引き締まり、つぎつぎと社員が駆けつけてきます。「朝日もやられた、今にここにも押しかけて来るだろう!」と誰かがいいます。

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