連載 星夜の逸品 -児玉光義-

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1インチ望遠鏡の「甲号」 1/22
~天文趣味民衆化の爲め大量生産廉價提供~

更新日 2016.2.22

天体望遠鏡を発売した理由(1)

大正15年(1926)9月に、日本光学工業株式会社(現:株式会社ニコン)を退職し、五藤光学研究所を設立した五藤齊三氏は、どうして天体望遠鏡を製造販売するようになったのでしょうか。その理由は、実は『1インチ望遠鏡の謎』のところで紹介した、科学画報社の代理部が発行した、「1インチ天体望遠鏡の説明書」に書かれています。それは、≪天文学の民衆化≫ということだったのです。原文のまま紹介しましょう。

(写真)1インチ天体望遠鏡の説明書

↑1インチ天体望遠鏡の説明書

「現代文化の發達が、科學の進歩に待つもの大なることは、今更呶々(くどくど)するまでもない。總ての科學の各分科中でも、天文學は最も厳粛崇高なる學科で、宇宙の神秘を探り、天體運行の秘密を尋ねる事は、其事それ自身詩であり哲學である。我等は之れにより初めて一切の宗教的迷信より離脱して、宇宙生物の眞の面目を凝視する事を得て、科學的文明の第一歩を建設する事が出来るのである。
而(しか)しそれは必ずしも難解にして豫備知識なきものの近づき難い高等數學からのみ近づく必要はない。寧ろ趣味としての天體を愛し、夜を鏤(ちりば)めたと見ゆる星空や、雄大其物の如き太陽を嘆美するアマチュアー天文家に依って、古來幾多の發見はなされたのである。
小型天體望遠鏡決して卑下(ひげ)すべきでない、昔ガリレオは極めて不完全な三十倍の望遠鏡で太陽黒點や、木星の衛星や、其他天文學上劃時代的の大發見をしたが、天文器械の發達した今日でも、諏訪中學の三澤先生(三沢勝衛1885-1937)は貧弱な望遠鏡で五年間太陽黒點の觀測をせられ、今や世界の學界に其功績を認めらるゝに至った。斯(か)く素人天文家の活動する範圍は、今後も極めて澤山あるが、只之に是非とも必要な天體望遠鏡が、從來貧弱なもので數百圓を投ぜねば手に入らなかった事は、此崇高な學門の民衆化を甚だ阻害して居た次第である。
然るに我社は茲(ここ)に絶對に信頼するに足る設備と動機に依り、非常なる大量生産の結果、從來の望遠鏡に比し、僅(わずか)に十分ノ一にも足らぬ價格で製出せられ、其効用又別項の如くアマチュア天文家の望遠鏡として充分なる威力を發揮し得る五藤式天體望遠鏡を提供し得るに至りたる事は、天體趣味普及上欣快(きんかい)に堪えない次第である。
我等は學校に家庭に之が普及して、多くの觀測家が生れ出で、我國學界の進歩發達に功献せられん事を希望する次第である。」( )内は筆者。

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