更新日 2016.2.29
また、「この望遠鏡は何故に絶對信用するに足るか?」と題してつぎのように記しています。
「◆此天體望遠鏡は、先に太陽像投映機や、顕微鏡像投映法を發明して、學界を驚かした天文同好會〔京都帝大内〕評議員、日本天文學會〔東京天文臺内〕特別會員たる五藤齊三氏が、從來の天體望遠鏡は尠(すくな)くも参百圓以上を投ぜねば手に入らざるを遺憾とし、天文學民衆化の爲に、日本光學工業會社に於て數年間苦心研究の結果、發明したもので其光學部分に對しては新案特許出願中である。
◆總て光學機械の生命はレンズの良否にあるが、殊(こと)に天體望遠鏡に於ては、之が製作困難にして、三吋の対物レンズは一個貮百圓にも上るのである。之を何んとかして簡單安價に作る方法はないかと云ふのが、五藤氏の研究目標であった。數年間の苦心は遂に本望遠鏡を生んだのであるが、之は一に日本光學工業會社の雄大なる設備と、内外學者の最高權威を網羅せる技術組織の賜である。
◆日本光學工業會社は、上圖に見る如く一萬五千坪の大工場と、千貮百名の從業員とを有する東洋第一世界屈指の大光學工場で、我陸海軍光學兵器の大半を製作する国家の保護會社であるが、其技術組織は我が國理學界のオーソリティたる長岡半太郎博士や、柴田雄次博士を顧問とするのみならず、先年独逸學界より「ランゲ」博士外七名の技師を招聘(しょうへい)する等内外學術の最高権威に指導せられてゐる。
◆本望遠鏡のレンズは、總て此東洋一の大光學會社に於て、大學にもない様な精巧な器械装置に依り生産せられ、且厳密なる検査を經たるものであるのみならず、組立てられた望遠鏡は五藤氏の研究所に於て、一々厳密なる觀測検査を經て出さるゝものであるから、價は安くとも絶對に信頼するに足るものである。」とあります。( )内は筆者。
このように、科学画報社の代理部が1インチ望遠鏡の特徴を、微に入り細に入り宣伝したので、月に百台、百二十台、百五十台と売れ行きが伸びて行きました。ところが、この1インチ望遠鏡の対物レンズを研磨している日本光学では、何故か「日本光学は五藤光学にはレンズを供給していない」という広告を朝日新聞に出しました。それに対して五藤光学は、日本光学にシングルレンズの注文書を出し、日本光学から注文受書をもらっていたので、その写真を撮って朝日新聞の広告で反論しました。すると、日本光学が五藤光学に謝って、喧嘩の幕がおりました。
そのようなことがあって、日本光学が大掃除したとにに出て来た半端物のレンズの山を、五藤光学が二束三文の安値で買い取ることができました。これらのレンズは、兵器としての基準には合わないが、一般的には優良品として十分通用するものです。その中にたくさん混じっていた直径61ミリのガラスを、富岡光学に依頼して対物レンズ用に研磨してもらい、それを芯取りして58ミリの鏡径に仕上げました。このレンズを搭載した天体望遠鏡が、前回紹介した「ウラノス号」です。
↑ウラノス号1型の対物レンズ
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