更新日 2016.3.28
1インチ望遠鏡を販売し始めた直後、望遠鏡に興味を持ってもらうにはまたとない天文現象が起こりました。五藤齊三氏の『天文夜話』に、
「当時(昭和二年)、十六年に一度起きるといわれている水星のトランシット(水星が太陽の表面上を通過する現象)が十一月十日に見えるというので、各地の天文愛好家から「五藤光学の望遠鏡でも、この珍しい現象が見えるのか」という問合せがずいぶんときた。
一方東京天文台の技師であった井上四郎氏が『科学知識』という高松博士の主宰する一段高級な科学雑誌に書かれた記事によると、この珍しい天文現象はレンズ口径が二インチ以上で、良質の色消レンズでなければ見えないと発表した。
私は、五藤光学の一インチの望遠鏡を購入した人々からの問合せに対して、十六年に一度しかない珍現象だし一度も見たことがないから、確定的に見えると言えないが、レンズの極限分解能は(λ×1.22)÷Dと言う公式で計算しても、又大衆的に使われているドーズの限界によっても、何れも一インチ当り五秒程に対してトランシットする水星の視直径は、十秒を超えているので、必ず見えるであろうと返事を出した。即ち、一インチの望遠鏡で、五秒が見えるし、水星が太陽の前面を通過する時は、最も地球に近い位置に水星があるので、視直径が十秒以上ある。したがって五秒で見えるものが十秒あるわけであるので、私は、水星のトランシットを見ることができると考えたわけである。
この水星のトランシットの当日、私は、府立科学工業学校から、東京都の視学であった広瀬という人と共に招かれて、ここで多くの人々に三インチの望遠鏡と太陽投影機を使って、太陽の表面に水星が黒点をえがいて通過する状態をスクリーンの面上に映して見せた。」とあります。
↑府立科学工業学校で水星の日面通過を観測する五藤齊三
< 5.にもどる | 7.にすすむ > |