連載 星夜の逸品 -児玉光義-

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1インチ望遠鏡の「甲号」 7/22
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更新日 2016.4.1

水星の日面通過の状況(1)

この昭和2年(1927)11月10日の水星の日面通過は、何時頃、どのような状況で起こったのでしょうか。当時、井上四郎氏が書いたという『科学知識』の記事か、当時の天文年鑑のようなものがあればよいのですが、何せ88年も前のことですからそうも行きません。そこで、手許にある資料を片端から調べてみたところ、昭和7年に恒星社から発行された、上田穣校閲、福本正人編の『日・月蝕及掩蔽 ―蝕現象の數理計算法―』という本に、英国の航海暦によったという昭和2年11月10日に起こった水星の日面通過の要素が掲載されているのを見つけました。厳密な接触時刻を知る必要はなく、日面通過の状況の概略がわかれば良い程度ですから、この要素を基に、図式計算法によって概略を探ってみることにしました。

(写真)上田穣校閲、福本正人編『日・月蝕及掩蔽』

↑上田穣校閲、福本正人編『日・月蝕及掩蔽』

内惑星の日面通過は、惑星と太陽の合が、その惑星の軌道の昇交点、または降交点の近くで起こった場合に起こります。水星の昇交点黄経は48°19′ですから、水星の地心黄経は48°19′+180°=228°19′で、そこに太陽が来るのは11月です。従って、昇交点の近くでの水星の日面通過は、11月の上旬だけに起こります。また逆に、降交点の近くでの水星の日面通過は、5月の上旬だけに起こることになります。
11月に起こる水星の日面通過の場合は、水星は太陽面上を南東から北西方向に通過し、5月に起こる場合は、水星は太陽面上を北東から南西方向に通過します。ただし、水星の対恒星公転周期と水星の会合周期、地球の対恒星公転周期の比が微妙に異なるので、水星が太陽面の端の方を通るか中心近くを通るかは、その時々によって違います。昭和2年11月の場合はどうだったのでしょうか。早速、計算結果を見てみましょう。
11月10日ですから、水星は南東から太陽に近づき、12時2.4分に太陽面に接触し、12時4.1分にすっぽりと太陽面に入ります。

(写真)英暦の要素から計算した水星の日面通過の様子

↑英暦の要素から計算した水星の日面通過の様子

その後、水星の黒点は太陽面上をジリジリと北西に移動し、14時45.9分に太陽の中心に最も近づきます。そして、水星は17時27.9分に太陽面から出はじめ、17時29.6分にはすっかり抜け出します。この時の水星の日面通過は、水星が太陽の中心からわずか1′という非常に近いところを通過するので、5時間半弱に渡ってこの珍しい現象を見ることができました。このことからも、五藤光学の1インチ望遠鏡を購入した、多くの天文愛好家が観察したことだろうと推測されます。ただし、11月10日の日没は16時40分前後ですから、水星が太陽面から出てくるところは、残念ながら日本からは見られなかったはずです

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