連載 星夜の逸品 -児玉光義-

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1インチ望遠鏡の「甲号」 8/22
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更新日 2016.4.11

水星の日面通過の状況(2)

ところで、その後、井上四郎氏の日面通過の記事の載った『科学知識』を、無事入手することができました。近年は、インターネットを通じて全国の古書店にどのような本があるか、瞬時に知ることができるようになりました。そこで、早速、「日本の古本屋」のホームページで、『科学知識』の昭和2年版(第7巻)を持っている古書店がないかどうか調べてみました。すると、札幌の古書店が第7巻の2~9号までと、11~12号まであることが分かりました。そこで、井上四郎氏の水星の日面通過の記事の掲載されている号があるかどうか、メールで問い合わせたところ、残念ながらそのような記事の掲載されている号はないという返答でした。
この中にないということは、1号か10号に掲載されているということになります。実際に水星の日面通過が起こったには11月10日ですから、1号(1月号)ということはないだろうから、10号(10月号)に違いないと見当をつけ、10号を探したところ、愛知県の尾張旭市の古書店にあることが分かりました。幸いその古書店には1号もありましたので、札幌の古書店と合わせて第7巻のすべての号を注文しました。すると、4~5日して届きましたので、早速、10号を見てみました。すると、井上四郎氏の「水星の太陽面通過」という記事がありました。内容を見てみましょう。

(写真)井上四郎氏の「水星の太陽面通過」の記事

↑井上四郎氏の「水星の太陽面通過」の記事

「水星の反射率は0.07であるから、水星面は大気が存在するとしても極めて希薄であるらしく思われる。若し水星に相当の大気が存在するならば、太陽面通過の初めに水星の暗体の周囲が、水星の大気による太陽の光線を屈折する結果として、光の環に取巻かれるわけであるが、此様な現象は認められないという人もあれば、微弱な光環を見たという人もあるから、大形の望遠鏡を所有する人は、之を観測したらよいと思う。又単に水星の経過を見るだけならば、口径二吋位な望遠鏡でも認められる。又太陽面経過中に水星を見る一法としては、望遠鏡を太陽に向け少しづゝ動かすことが出来る様に丸柱に結びつけ、接眼鏡の管を伸縮して班のない滑かな厚い白紙面に太陽の像を直径五、六寸ぐらいに映して見ると、水星は小さな黒点となって現れる。尤も太陽の黒点があると水星と見誤ることがあるから、それには白紙面に映った太陽の円形を描き、其円に正しく太陽の像を一致させて黒点の位置を印して置くと、太陽の黒点ならば短時間に位置が変らないが、水星である黒点は時々刻々位置が変るから、それが水星であることが知れる。」とあります。 故五藤齊三氏は『天文夜話』に、東京天文台の技師の井上四郎氏は、「この珍しい天体現象はレンズ口径が二インチ以上で、良質の色消レンズでなければ見えないと発表した。」と書いています。しかし、実際の記事をみると、「又単に水星の経過を見るだけならば、口径二吋位な望遠鏡でも認められる。」 となっています。 それでは、実際のところはどうだったのでしょうか。

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