更新日 2016.4.25
1インチの望遠鏡で、水星の日面通過の様子は観測できたのでしょうか。五藤齊三氏は、1インチ望遠鏡で見ることが出来ると返事しましたが、内心は、1インチ望遠鏡で水星の日面通過を実際に見た人がいただろうかと心配でした。ところが、山口県吉敷郡良城尋常高等小学校の校長で、京都帝国大学内にあった天文同好会の山口支部の幹事でもあった恵藤一郎氏から、「スイセイケイカ一インチニテミユオメデトウエトウ」という電報を受取ります。
↑恵藤一郎氏が五藤齊三氏宛に打った電報
水星の日面通過は、口径わずか25ミリの1インチの望遠鏡でも見えたのです。電報を受付けたのが午後1時00分で、発信局はヨシキ(山口県の吉敷)です。右下の日付印のところには、世田谷局の昭和2年11月10日の日付の入った丸いゴム印が押されていて、受信は午後2時50分となっています。このことから、恵藤氏がこの電報を打ったのは、水星の日面通過が始まって間もなくの頃であることが分かります。
ところで、五藤齊三氏は『天文夜話』に、「当時、全く名前を存じあげなかった山口県の秋吉村の小学校長をしておられた恵藤一郎(故人)という方から「スイセイケイカ一インチニテミユオメデトウ」という電報をいただいて私は、めんくらったと同時に、うれしくもあった。」と書いています。
しかし、これは五藤齊三氏の記憶違いです。恵藤一郎氏は、山口県教育会発行の『山口県教育』の昭和2年2月号に、「天体望遠鏡の研究」というレポートを掲載しています。それは、当時発売されたばかりの1インチの望遠鏡の試験結果と、その利用方法、使用上の注意などを述べたものです。
↑恵藤一郎氏の「天体望遠鏡の研究」
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