連載 星夜の逸品 -児玉光義-

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1インチ望遠鏡の「甲号」 16/22
~天文趣味民衆化の爲め大量生産廉價提供~

更新日 2016.6.13

1インチ望遠鏡「甲号」の架台部(2)

五藤式天体望遠鏡使用説明書「ウラノス号(第十版)」の望遠鏡の据付法のところに、「三脚は先端を結んで正三角形になる様にし且一辺の長さを90糎位に開いて用いる。又「コンクリート」や固い床の上では脚が滑り望遠鏡を倒すことがあるから丈夫な紐で脚の中頃を縛り開き止めを行えばよい。
夜間多人数で観測する時は脚の下端に白い布を捲くと目印となり足で引倒す事を防止出来る。
独りで観測する時は腰掛に掛けて目標の高さを調節すると楽である。」とあります。
当時(昭和初期)、高さが自由に調節できるイスなどはありませんでした。イスに腰かけて目標の高さを調整するということは、眼の高さを上下させることはできませんので、望遠鏡の方を上下するしかありませんでした。つまり、三脚の足の開き具合を調整して、望遠鏡を上下させたのです。そこで、脚がズルズルとすべって望遠鏡が倒れないように、脚の中ほどを紐で結んで開き止めとしたものと考えられます。

(写真)五藤式天体望遠鏡使用説明書「ウラノス号(第十版)

↑五藤式天体望遠鏡使用説明書「ウラノス号(第十版)

「乙号」の架台は、「つまり取り」のような架台の内側に三脚の足をねじ込むだけですから、三脚の足の開き具合を自由に調節することができないという欠点がありました。そこで、この欠点を解消するために、「甲号」の架台では、蟇股(かえるまた)になった金具を用いることによって、三脚の足の開き具合を自由に調節できるようにしたのだろうと考えました。しかし、実際に「甲号」を設置してみて、そうではないことに気づきました。望遠鏡を上下させるために、三脚の足の開き具合を自由に閉じたり開いたりできるようにしたのではないということです。

(写真)1インチ望遠鏡「甲号」の架台と蟇股の関係

↑1インチ望遠鏡「甲号」の架台と蟇股の関係

三脚の足をねじ込む蟇股(かえるまた)は、架台から出た突起にピンで止められていますが、蟇股が前後に動くように、突起と蟇股の間にわずかな隙間があります。従って、前掲の左側の写真のように、三脚をいっぱいまで開かずに途中で止めると、突起と蟇股の間の隙間のために、三脚に対して架台が左右にぐらぐらと回転します。これでは望遠鏡が安定せず、とても観測はできません。それを止めるには、前掲の右側の写真のように、三脚の足をいっぱいまで開き、蟇股の先端が架台に接するようにしなければなりません。つまり、三脚の足の開き具合を途中で止めることはできないのです。それでは、どのような理由で三脚の足が閉じたり開いたりできるようにしたのでしょうか。
当時は、夜は今よりも暗く、懐中電灯も今のように発達していなかったので、夜、外で望遠鏡を組み立てるのは難しかったのではないでしょうか。そこで、室内で架台と三脚を組み立てて外に出そうとすると、三脚の足が開いたままでは戸口から出すことができなかったので、三脚の足をすぼめられるようにしたのではないでしょうか。私はそのように考えているのですが、みなさんはどうでしょうか。

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