更新日 2018.6.18
それでは、広瀬秀雄さんの説というのは、どのようなものだったのでしょうか。
↑『科学朝日』昭和23年4月号と広瀬さんの記事
『科学朝日』の昭和23年4月号に、広瀬秀雄さん自身が「日食と月の関係」と題して、詳しく書いています。ただし、長文ですから要約して説明いたします。
↑第1図 月の位置の狂いと日食中心線の変動
日食は、太陽と月の中心を結ぶ直線が地上に当るところで金環食または皆既食が見られます。地球が西から東へ自転するのと同時に、月は西から東に動くので、この直線と地球の交点(第1図)は、地球上を西から東に毎秒約500m以上の速さで走り、地表に曲線XYを描きます。この線が所謂“中心線”です。
今回の日食では、たまたまA点が礼文島を通るため、観測隊が礼文島に集まることになったのです。
例えば、月の位置が予想と違って、第1図のMの位置より外れてM’にあったとすれば中心線がX’Y’となり、この狂いが大きいと、礼文島を外れてしまいます。普通の皆既食または金環食では、中心付近の幅は40km以上ありますが、今回は僅か1kmで、この範囲外では金環食にはなりません。このようにきわどい日食ですから、月の予想位置と実際の位置との差は重大な意味をもつことになります。
ところで、月の位置は星を使って決められ、星の位置は太陽を使って決められます。このような測定をするために、天文台では子午環という大きな目盛環を持った望遠鏡を用いて、0.1秒という精度で観測されます。
↑国立天文台の20cm子午環
1秒の目盛を1mmの間隔で目盛ると目盛環の半径が206mにもなりますが、子午環では1.5mの直径ですませているので、その精度を保つのはなかなか大変です。
そこで、月の位置を調べるために地球の自転を用いると、半径が6,400kmの目盛環を持つ子午環を使ったのと同じことになりますので、1秒が30mにもなります。しかもこの大きな目盛は“時刻”によって刻んであることになり、非常に都合が良いことになります。従って、掩蔽を観測し、時刻が1秒まで分かれば、月の位置の狂いが角度の0.5秒くらいまで分かります。
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