連載 星夜の逸品 -児玉光義-

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落札してから調べよう 1/3
~2017年10月にヤフオクに現われた謎の鏡筒とその格納箱~

更新日 2018.11.19

事のはじまり

ちょっと前の事ですが、2017年10月7日の早朝7時12分、香川の天体望遠鏡博物館の理事をされているH.S.さんからのメールで目が覚めました。
「お世話になっております。
ヤフオクに以下の望遠鏡が出ております。
天体望遠鏡博物館の担当の方から問い合わせがありました。ご存知でしたら、教えてください。
銘板はそれなりですが、箱の板質とか接眼部、架台はカートンの初期の望遠鏡と似ております。
よろしくお願いいたします。」
という内容でした。
私は、パソコンをインターネットにつないでおりませんので、資料を送ってもらって拝見すると、「五藤光学研究所 アンティーク天体望遠鏡 ジャンク/ウラノス号? コメット号?」という標題で、格納箱に入った望遠鏡の鏡筒、鏡筒についている方位(水平)回転軸、接眼部、対物レンズ部、格納箱に貼られた銘板などの写真が並んでいました。
対物レンズは、口径が55mmで、鏡筒の全長が800mmということですから、おそらく鏡径は58mmで、焦点距離が800mmと思われます。
ところで、天体望遠鏡の素性を知るには、その望遠鏡の「鏡筒」、「架台」、「三脚」の3つの要素を詳しく吟味し、いつ頃、どのようなメーカーによって作られた、何という名前(愛称)の望遠鏡かを明らかにする必要があります。しかし、今回出品された望遠鏡の鏡筒には、残念ながら、架台や三脚、付属品等は全く付属しておりませんでした。

(写真)五藤式天体望遠鏡の格納箱に貼られた銘板

↑五藤式天体望遠鏡の格納箱に貼られた銘板

このような状況の中で、望遠鏡を特定するのはなかなか難しいものです。しかし、そんな中で私の目を引いたのは、貧素な格納箱に貼られた五藤光学の「銘板」です。所謂“ZEUSマーク”と呼ばれるものですが、五藤光学研究所の社名の前に、「株式会社」の標記がありません。このような銘板は、これまで見たことがありませんでした(前掲の銘板の写真参照)。
ところで、五藤光学が株式会社になったのは、昭和13年3月11日からですから、大正15年9月1日~昭和13年3月10日までは、株式会社ではありません。
しかも、今回の望遠鏡が格納されている箱を見ると、薄い杉板のようで、仕切りも少ない粗末なものですし、1インチ望遠鏡の「甲号」の格納箱に似ています。

(写真)1インチ望遠鏡「甲号」の格納箱

↑1インチ望遠鏡「甲号」の格納箱

そこで、今回の望遠鏡は、相当古いもので、昭和13年よりも前に作られたものではないかと考えました。
しかし、ヤフオクに出品された写真を見たとき、何か妙な違和感を感じました。鏡筒には、フードもありませんし、接眼部にはドロチューブもないようで、小さな箱に大きな鏡筒を無理やり入れたように見えます。

(写真)ヤフオクに出品された当時の写真を再現

↑ヤフオクに出品された当時の写真を再現

鏡筒バンドと方位回転軸も、後から取って付けたようで何となく妙でした。

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