連載 星夜の逸品 -児玉光義-

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鏡筒バンドと方位回転軸 3/3
~2017年10月にヤフオクに現われた謎の鏡筒とその格納箱~

更新日 2019.2.20

大事にされていた望遠鏡

(写真)格納箱に付けられた大きなキズ痕

↑格納箱に付けられた大きなキズ痕

それから、もう一つ話しておかなければならないことがあります。それは、格納箱に貼られた一枚の貼り紙についてです。
格納箱は、薄い杉材の一枚板で作られた質素な箱です。しかし、元々の所有者は、この望遠鏡を余程気に入っていたのでしょう、とても大事に使っていたことが窺われます。箱の蓋に、大きなキズが数ヶ所ありますが、このキズは今から数10年も前に、この望遠鏡の所有者がつけたものではありません。傷口が新しいことから、これは明らかにごく最近つけられたものです。そして、このキズの他に古い傷はありません。従って、とても大事に扱っていたのでしょう。

(写真)格納箱に貼られた一枚の紙

↑格納箱に貼られた一枚の紙

さて、格納箱に貼られた紙片ですが、
「戦後 物資不足のころのものと思われます。
接眼レンズ1個と天頂プリズム1個ははずして
保管してあります。」
とありました。しかし、この望遠鏡がヤフオクに出品された時は、接眼鏡と天頂プリズムは付属しておりませんでした。昭和23年のカタログの「付属品」の天体用接眼鏡のところには、接眼鏡の型式と焦点距離の記載はなく、倍率が書いてあるだけです。ところが、カタログ中央の組立用光学部分品の接眼鏡ところに、
 ミッテンズェー型 25 粍
 仝        12.5粍
 仝        9 粍
  定価・・・・・・800円
 仝        6 粍
  定価・・・・・1,040円
 ハイゲン普及型 12.5粍
 仝        9 粍
  定価・・・・・・600円
サングラスのところに
 高級型・・・・・・210円
 普及型・・・・・・150円
とあります。これは、高級品の対物鏡を用いた製品にはミッテンズェー型ハイゲン式の接眼鏡と高級型のサングラスを、普及型の対物鏡を用いた製品にはハイゲン式の接眼鏡と普及型のサングラスを用いるということのようです。
鏡径58mmの高級品と普及型の対物鏡の焦点距離はどちらも800mmですから、接眼鏡の焦点距離は、
 800mm÷27倍≒30mm
 800mm÷64倍=12.5mm
 800mm÷89倍≒ 9mm
となります。
ところで、昭和25年~30年頃に製造販売された「ウラノス号4型」や「スバル号3型」等に付属していた接眼鏡の社名は“GOTO KOGAKU”と彫刻されていたことが分かっています。また、それ以前の接眼鏡も同様の彫刻がなされています。従って、普及型のダイアナ号には、下の写真のような接眼鏡とサングラスが付属していたものと推測されます。

(写真)普及型用のハイゲン式接眼鏡とサングラス

↑普及型用のハイゲン式接眼鏡とサングラス

また、貼り紙には天頂プリズムがあったとありますが、カタログの付属品のところには、天頂プリズムの名前はありません。従って、天頂プリズムは、後で買い足したものと思われます。つまり、天頂プリズムを必要とするほどこの望遠鏡は使われていたということです。

(写真)後で買い足したと思われる天頂プリズム

↑後で買い足したと思われる天頂プリズム

おそらく、プリズムケースの側面にGOTO KOGAKUと彫刻された、このような天頂プリズムだったと思われます。このように、格納箱に貼られた一枚の紙片から、この天体望遠鏡がいかに大事につ使われていたかを窺い知ることができます。
ところで、この望遠鏡の格納箱に貼られた紙片は、実は秋田銀行のメモ用紙です。おそらく、この望遠鏡の所有者だった人のご遺族か、そのような方が、或は、秋田銀行にお勤めか、利用者だったかも知れません。よくこの望遠鏡を残してくれました。

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