連載 星夜の逸品 -児玉光義-

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確証を100%にするために 2/3
~2017年10月にヤフオクに現われた謎の鏡筒とその格納箱~

更新日 2019.3.4

対物レンズの焦点距離を調べる(2)

(写真)ウラノス号4型の鏡筒の寸法図

↑ウラノス号4型の鏡筒の寸法図

その結果、対物レンズ枠の先端からドロチューブを除いた接眼部の端までの長さは、711.1mmとなりました。
両者の長さを比べると、
796mm - 711.1mm ≒ 85mm
となり、今回の望遠鏡の方が85mmほど長いことが分かります。ウラノス号の対物レンズの焦点距離は800mmです。今回の望遠鏡の焦点距離がそれよりも長いのでしょうか。それとも、別に理由があるのでしょうか。もう一度、昭和23年のカタログを見てみました。
五藤式高級天体望遠鏡『ウラノス号』の〔付属品〕のところに、

  天体用接眼鏡 13×~133× 5個
  地上用接眼鏡 27× 1個
  天頂用プリズム 1個
  サングラス 1個
  太陽投映機 1個
  堅牢木製三脚 1個
  格納箱 1個

とあります。
よく見ると、ウラノス号には天頂用プリズムがありますが、ダイアナ号にはありません。
そうだ、天頂プリズムを使用する望遠鏡は、鏡筒を短くして、その分ドロチューブを長くするのが普通です。どのくらい短くするかというと、

(写真)天頂プリズムの光路

↑天頂プリズムの光路

上の図からも分かるように、バレルは望遠鏡の接眼スリーブに挿入される部分ですから、その部分は除き、その後方の
  17mm +17mm +34mm =68mm
だけ短くすることになります。
逆の言い方をすれば、天頂プリズムを使わない天体望遠鏡の場合は、ウラノス号よりも68mmだけ鏡筒が長くできるということです。実際には、85mm長くなっておりますが、誤差の範囲と考えれば、この望遠鏡の対物レンズの焦点距離は800mmに間違いないようです。
それにしても、どうしてこのような粗末な鏡筒の天体望遠鏡を作ったのでしょうか。その理由については、先に掲げた昭和23年のカタログの説明文につぎのように書いてあります。
「本機は可及的大口径鏡を可及的経済的に入手せんと希望せらるゝ向の為めに良心の許す最大限度の経済的製品として提供するもので光学系製作には特に注意を払って有るから月の山谷噴火口太陽黒点の暗部半暗部金星の三日月形木星の衛星と縞土星の環主なる星雲星団等新制中学教科書の天文現象を十分に観測指導し得るものである唯総て簡易を旨としたものであるからウラノス号に比し数段見劣りはするが景色用望遠鏡とも成り学校教育用としてもアマチュアの研究用としても十分有用に使用し得るものである。」
五藤齊三氏のモットーは、”天文学の民衆化”です。
従って、五藤光学が戦後の物資不足にもかかわらず、何とか多くの人々に天体望遠鏡を提供しようと、如何に苦心したかがこの鏡筒からも伺えます。その意味で、この鏡筒は貴重です。

(写真)普及型ダイアナ号の対物レンズ部

↑普及型ダイアナ号の対物レンズ部

(写真)普及型ダイアナ号の接眼部

↑普及型ダイアナ号の接眼部

従って、今回の望遠鏡は、ウラノス号の廉価版として作られた、「五藤式普及型天体望遠鏡『ダイアナ号』」の鏡筒に間違いないようです。

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