更新日 2020.10.30
前述ような方法で太陽投映機の投映レンズの焦点距離を求めたが、視野レンズと眼レンズの間隔は、両レンズの主点の位置が分からないので、レンズの光軸付近の厚さの中間の距離として測定しました。また、両レンズの焦点距離も、上掲のような太陽像の大きさが一番小さくなるところまでの距離としました。このような方法で求めた焦点距離は、果たして正しいのだろうか。
何か手掛かりになるような資料がないものかと、古い望遠鏡関係の資料をあれこれ探してみました。すると、五藤式天体望遠鏡使用説明書「ウラノス号」(第十版)の中に、太陽投映機の使用法がありました。
↑ウラノス号の使用説明書
その使用説明書の「(4)太陽投映機」のところに、
「本機は曽つて世界的発明として東京朝日新聞に報道せられた弊所の独創的製品で暗室なしに極めて鮮明な太陽像の拡大投映が出来、之に「顕微鏡用プレパラート」を入れると専門の投映顕微鏡に優る能力を発揮する。・・・云々」とあります。
そこで、当時の新聞を調べてみると、
↑大正15年8月13日(金)東京朝日新聞
この太陽投映機は、五藤齊三が日本光学時代に開発したもので、星夜の逸品の「望遠鏡最初の付属品」のところで紹介した太陽投映機のことで、残念ながら今回の太陽投映機とは異なるものでした。
そこで、もう一度ウラノス号の使用説明書に戻って調べてみたところ、(d)接眼鏡への代用法のところに、
「本機を「プリズム面」から覗くと接眼鏡として倍率13×射出瞳孔径4.2粍、実視界1度30分の極めて明るい視野が得られ星雲・星団や彗星の捜索に威力を発揮し「プレアデス星団」を包む星雲物質や半月時の地球照さえ微かに認める事が出来る。又上から覗けば左右は反転するが極めて明るい地上接眼鏡にも代用出来る。」とあります。この太陽投映機は現在の物と同じものですから、これで何とか確かめられそうです。
↑ケプラー式天体望遠鏡の光路図
上掲の図は、ケプラー式天体望遠鏡の光路図です。望遠鏡がウラノス号ですから、対物レンズは、
有効径 D = 55mm (鏡経 = 58mm)
焦点距離 fo = 800mm
です。先に計算した太陽投映機の投映レンズは、
焦点距離 fe = 60mm
ですから、
倍率 M = fo / fe = 800mm / 60mm = 13.3 倍
射出瞳径 d = D / M = 55mm / 13.3倍 = 4.125mm
となり、ウラノス号の使用説明書の値と一致します。従って、太陽投映機の投映レンズの焦点距離は、60mmで間違いないようです。
また、ラムスデン接眼鏡の見かけの視界が30°~50°ですから、その中間をとって40°と仮定して実視界を計算してみると、
見かけの視界 2ω′を 40°とすると、
実視界 2ωは、
M = 2ω′/ 2ω = tan ω′/ tan ω より
tan ω= tan ω′/ M = 0.363970 / 13.3 = 0.027366
ω= 1.567565° 2ω= 3.135139°
となり、使用説明書の値 1°30′とは一致しません。そこで、使用説明書の値が ωの値になっていると考えれば辻褄が合うのですがどうでしょうか。
< 2.にもどる | 4.にすすむ > |