連載 星夜の逸品 -児玉光義-

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太陽投映機 [解説]
~太陽投映並プレパラート投写機兼用地上用接眼鏡~

更新日 2020.12.11

シュリーレン法などに関する解説

前ページの最初に、「(c) シュリーレン法の実験とヘリオスタットの代用法」と題してウラノス号の使用説明書にある文章を載せましたが、必ずしも正しい表現ではないのではという指摘をいただきましたので、堀 正樹先生に解説をしていただきました。以下に掲載させていただきます。

「シュリーレン」(ドイツ語Schliere)とは「筋」又は「縞」という意味ですが、「シュリーレン法」とは光学ガラスや空気中の煙などの透明な媒質中の屈折率が空間的に変異する様子を可視化するために用いられる方法の一種です。1860年代にAugust Toeplerが考案したとされ、装置構成としては点光源から平行光束を作り出すレンズまたは鏡、その平行光束が透過する被写体、光束を再び収束させるためのコリメートレンズまたは鏡、そしてナイフエッジが用いられます。この手法の特性上、鮮明な画像を得る上ではこれらの光学系を微妙に調整する作業が不可欠となりますので、比較的高度な技能を必要とする手法であると言えます。
 一方、1880年にToeplerの共同研究者の一人であったドヴォローク(Vincenz Dvořák)がヘリオスタット等の点光源と被写体、そして実装によってはレンズ系や投影スクリーンを併用して液体や気体の屈折率の空間的変異を可視化する簡易的な方法を発表しました。この方法は1930年代頃の学術論文において「シャドウグラフ法」(英語 shadowgraph)と呼ばれるようになり現在に至ります。厳密な説明をしますとシュリーレン法は屈折率の空間分布の一次微分に感度を持ちますが、一方、シャドウグラフ法は二次微分に感度を持ちますので得られる画像の性質が大きく異なります。現在でも二つの方法は流体力学の分野で衝撃波の観測等の用途で併用されております。
 従って、この太陽投映機で応用されておりますのはシュリーレン法では無くドヴォロークが考案したシャドウグラフ法の一種と理解されます。この天体望遠鏡の使用説明書が執筆された時代におきましては、まだ「シャドウグラフ法」という名称が上記の歴史的経緯により普及していなかった可能性が考えられます。なおシャドウグラフ法の事を別称で「ドヴォローク法」と呼んだ例は過去の学術雑誌においても見つけることができませんでしたので、こうした名称の使用は国際的に適当とは言えない可能性があります。現代におきましては「ドボラック法」とは気象衛星によって撮影された熱帯低気圧等の画像を用いてその勢力を推定する方法を意味する学術用語となっております。両者の混同を避けるためにも「シャドウグラフ法」という正式名称を使い続けるのが適当であると考えられます。

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次回もお楽しみに。

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