更新日 2022.1.14
↑しし座χ星(矢印)「STERN-ATLAS」Dr.P.STUKER
山崎氏は、10月11日の件もあって、自分なりに確認してからと考えたのだろう、月のなくなるのを待って、11月10日の朝3時頃、再び見たところ、前の位置に星雲状の天体はなかった。その時、この方向にはかなり雲があって、その近くを捜索することが出来なかった。そこで、これは間違いなく彗星だから東京天文台に通知して、この付近を8インチ彗星捜索機で探して頂くよう依頼した。
東京天文台の木下技師は、写真によって捜索をした。山崎氏も捜索をつづけていたが、何分にも天気が悪く充分探ることが出来なかった。これが、新彗星であれば、日本最初の記念すべき大発見である。見失っては大変と、京都大学の山本一清博士は、当時日本領だった台湾まで追いかけて行って捜索したが、その甲斐もなく見つけることができなかった。こうして、山崎氏の見た彗星状の天体は失踪してしまったのである。
ところが、それからしばらく経った11月23日になって、つぎのような外電が入って来た。
Comet Forbes 21060 November
02000 18207 11142 36020 36050
24479 Cape Town Stromgern
彗星が発見された時は、常にこのような電報が来る。
ところが、山崎氏と神田茂氏がこの電文を解読した内容に、一部異なるところがあるので、ここで独自に解読を試みた。ただし、天文電報の暗号電文はいろいろ改訂され、現在のものは、昭和初期の方法とは全く異なる。そこで、ここでは、明治34年(1901)4月にクロイツ博士によって発表されたものを、大正14年(1925)に上田 穣博士によって修正されたものによって解読した。
1. 最初が天体の種類で、Cometとあるので彗星。
2. つぎが発見者名で、Forbesとあるのでフォルベス。
3. つぎの5桁の数字は、最初の2数字が発見した日付で、21とあるので21日。
残りの3数字は彗星の光度を10分の1等級の単位で表したもので、
060は6.0等級である。
4. つぎは彗星を発見した月名で、Novemberとあるので11月。
5. つぎの5桁の数字は、発見した時刻を世界時(UT)の時と分を、10分の1分の単位で
表したもので、02000とあるので2時00.0分(UT)。
6. つぎの5桁の数字は、彗星の赤経を度、分で表したもので、18207とあるので
182°07′で、時分秒に直せば12h 08m 28sとなる。
7. つぎの5桁の数字は、彗星の北極からの距離(NPD)を度、分で表したもので、
11142とあるので111°42′で、これを赤緯に直せば-21°42′である。
8. つぎの5桁の数字は、彗星の赤経の日々運動で、度と分で表し、それに
36000(360°00′)を加えたものである。36020とあるから36000を引くと
20ということは20′であるから、これを時間の分に直せば、
20 ÷ 15 = 1.333m = 1m 20sである。
9. つぎの5桁の数字は、彗星の北極距離の日々運動で、度と分で表し、それに
360°00′を加えたものである。36050とあるから36000を引くと50ということは
50′で、北極距離が増加する方向であるから、赤緯では -50′である。
10. つぎの5桁の数字は、チェックのための数字で、これまでの数字を全て加えて下5桁を
とったもの。
21060+02000+18207+11142+36020+36050=124479であるから、下5桁をとって
24479であるから、電文が正しいということである。もし、一致しない時は、
Reptitionと電照すれば、再度電報を受取れる仕組みになっている。
11. 最後が発信者の署名で、Stromgrenとあるので、ストロムグレンが発信したということで
ある。
それでは、昭和3年(1928)11月23日にデンマークのコペンハーゲンにある天文電報中央局から、当時の東京天文台に届いた彗星発見の電報を文章化すると、
「ケープタウンのフォルベスが新彗星を発見した。
11月21日2時(UT)の位置は、赤経12h 08m 28s、赤緯-21°42′、赤経の日々運動+1m 20s、赤緯の日々運動 - 50′、光度6等、天文電報中央局ストロムグレン発信。」となる。
これによって、その日々運動から逆算してみると、ちょうど山崎氏が発見して見失った彗星の位置に似ているが、勿論、全く一致するわけではない。フランクリン・アダムス写真星図さえあれば、10月28日の朝即座にこれが彗星であると決定して、東京や京都にも電報によって通知したであろうし、従って、フォルベス氏よりも3週間も早く各国で観測することが出来たはずである。この星図は、英国皇立天文会発行のもので、価格は数百円で、永久的記念物であるけれども、個人で買うには少々高価である。日本でも東京と京都の天文台の2ヶ所以外に有るかどうか分からない。
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