連載 星夜の逸品 -児玉光義-

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異色の天文学者・山崎正光(第一部) No.1 6/13
~日本人として初めて新彗星を発見し、日本に最初にガラス製反射鏡の研磨法を伝えた学者の生涯~

更新日 2022.2.10

彗星の軌道要素

 太陽系において、天体をすべて質点と考え、太陽の引力だけを考えて他の1つの天体(小惑星や彗星など)の軌道と運動の様子を調べる問題を「二体問題」という。この二体問題の運動方程式を解いた結果、天体は二次曲線(円軌道、楕円軌道、放物線軌道、双曲線軌道)のいずれかの軌道で運動することが分かっている。従って、この運動の状態を表すには、どれだけの量が必要かを考えればよい。
 まず、天体の運動は、太陽を含む1つの平面に限られるので、これを「軌道面」と呼び、この軌道面を規定することを考える。そのためには、基準になる平面が必要である。その基準面として「黄道面」をとり、基準の方向として太陽から見た「春分点」の方向をとるのが普通である。この基準面と軌道面は、ともに太陽を含んでいるので、2つの平面の交わるところは太陽を通る直線となりこれを「交線」と呼んでいる。

(写真)軌道図

↑軌道図

 天体が、この交線方向で、黄道面を南側から北側へ抜ける軌道上の点を「昇交点」と呼び、逆に黄道面を北側から南側へ抜ける軌道上の点を「降交点」と呼ぶ。そして、太陽の中心から見た春分点方向から、天体の昇交点方向まで測った角度を「昇交点黄経」といい、記号Ωで表す。つぎに、黄道面と軌道面のなす角を「軌道傾斜角」といい、記号iで表す。この昇交点黄経と軌道傾斜角が与えられれば、基準面(黄道面)に対する軌道面の位置が決まることになる。
 つぎに、軌道図の薄緑色で示した軌道面の中に、太陽を焦点とする二次曲線の天体の軌道がある。これを規定するにはどのような量が必要だろうか。
 まず、軌道の向きを決めるために、天体が軌道上で最も太陽に近づく点(近日点)の方向を与える。つまり、昇交点の方向を基準にして、天体の運動方向と同じ向きに近日点方向まで測った角を「近日点引数」といい記号ωで表す。そこで、昇交点黄経Ωと軌道傾斜角i および近日点引数ωを「角度要素」という。この3種類の角によって、軌道の傾きと近日点の方向、即ち軌道の長径の向きが決まることになる。
 つぎに、二次曲線の種類とその形を規定するための離心率eを与える。もし、eが0であれば軌道は円、0と1の間であれば軌道は楕円、1であれば放物線、1よりも大きければ双曲線である。
最後に、軌道の大きさを表すために、軌道の半長径aを与える。双曲線軌道の場合はaは負の値となる。また、放物線軌道の時はaは無限大となるので、その代りに近日点距離qが用いられる。
 従って、これら5つの量によって天体の空間における軌道の位置が決められたことになる。しかし、これだけでは与えられた時刻に、天体が軌道上のどの点を運動しているのかが分からない。そこで、これを決めるために普通天体が近日点を通過した時刻Tが与えられる。
 このように、小惑星や彗星などの天体の軌道と運動を規定する6つの量、

  近日点通過 T、  近日点引数 ω
  軌道半長径 a、  昇交点黄経 Ω
  離 心 率 e、  軌道傾斜角 i

を「軌道要素」といい、これが与えられれば小惑星や彗星などの天体の、任意の時刻における位置を計算することができるのである。

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