連載 星夜の逸品 -児玉光義-

ドームなび GOTO投映支援サイト

異色の天文学者・山崎正光(第二部) No.3 5/8
~日本人として初めて新彗星を発見し、日本に最初にガラス製反射鏡の研磨法を伝えた学者の生涯~

更新日 2023.11.10

 6月25日  この月は天気悪い。この晩晴れた。然し薄雲ありてよくない。変光星を見るに望遠鏡が何だか位置が合わない。はくちょう座α星によりて時角circle(環)を正し見るにおよそ10分の差あり。自然に狂いしものらしい。因てこれを正す。
NSPのプログラムの星野area(領域)100 わし座42星の方面を8cmと64mm Lantern lensを140の角度を持たし16分の露出で写真を撮る。この間Declination(赤緯)では殆ど狂いなし。
R.A.(赤経)の運動に狂いが少ない時、即ち時計仕掛がうまく運転すれば自動的に1時間位露出させ、流星時期にPatrol Cameraとなすもよからん。

 7月1日  1インチ半の短焦点レンズ(f=31cm)望遠鏡を、25cm反射鏡の反射ファインダーに用うるべく改造す。プリズムが無いから反射作用には反射鏡を用うる平面斜鏡を用う。25cmへ1インチ(25mm)アイピースを用いると視野が40′位であるからファインダーを用いないと星を入れるに骨が折れる。このファインダーも接眼部の近くにある方がよいから、反射ファインダーを用いるが便である。
  ----------------------------------
25cmおよび15cm鏡、平面斜鏡を磨き直す。25cm用のものは、始め全く使用に堪えない程悪いものであったのを、下図の如き干渉線を見る程度に迄した。

(写真)

ともかく、これをはめて星により試験をなす。もしこれがよければ、15cm用のものは25cm用よりもよい筈である。25cmも又平面鏡も両方とも鍍金してないから、薄くて充分試験できない。月を1インチアイピースにて見るに頗る鮮明のようである。雲の為にまだ星にて試験出来ない(7月4日)
0.3インチアイピースを用い、星により25cm鏡の試験をなす。だいぶよいようだが鍍銀なき故、充分反射力なきにより確かなことは言えぬけれども、月を見れば実に鮮明である。火星はどうもよく見えない。平面鏡は15cmに用いたものをそのまま取り替えることにした。(7月6日)

25cm鏡には硝酸銀1グラムを用いて鍍銀せるに立派に付いた。今迄4グラムを用いていたが、物資節約の今日、思い切って1グラムを用いて成功。ダイヤゴナル(斜鏡)には0.25グラムの硝酸銀を用いしが、これは多過ぎる。0.1グラムにて充分らしい。(7月8日)

恒星社発行の図説天文講座、遊星にある稲葉通義氏執筆のもので、海王星発見の所に発見場所の星図が載っておる。これは初めて見る図であるから赤経・赤緯を知るために計算をなす。Le Verrier(ルヴェリエ)がGalle(ガレ)に送った手紙には黄緯は黄道上、黄経は326°とのみ示したのである。β(黄緯)、λ(黄経)が知れたるとき、α(赤経)、δ(赤緯)を知るの計算は、球面天文書にあることで、その公式は、
    cosδcosα=cosβcosλ
    cosδsinα=cosβsinλcosε-sinβsinε
    sinδ         =cosβsinλsinε+sinβcosε
    ε=23°27′8.26″-0.4684″(t-1900)
この場合、β=0°なる故、 sinβの類が0で、cosβの類が1である。

1846年、9月23日発見の時のapparent place(視位置)
    α= 21h 53m 1s    δ= -12°51′43″
と出す。天体暦が無いからmean place(平均位置)に直すのは出来ないけれども大体、ap-meanを⊿α= -3s  ⊿δ= -20″としてmean placeを 
    α= 21h 52m 58s    δ= -12°52′3″
となる。この位置をSchofeld(シェーンフェルト)の星図の位置1855年分点に直せば、
    α= 21h 53m 27s    δ= -12°49′30″となる。
本の星図による海王星発見の位置をシェーンフェルトの星図と比較して得た位置は、
    α= 21h 53m    δ= -13°20′
となり、ルヴェリエの指定した位置より少しく南に当る。本ではこの位置を発見の場所としてあり、指定の位置が大体、
    α= 21h 49m    δ= -13°15′
になっておるのは、間違っておりはせぬか?
ルヴェリエ指定位置は、計算通りに違いない。
即ち、    α= 21h 53m    δ= -12°31′
発見位置    α= 21h 53m    δ= -13°20′
(1855.0年分点
が正しくないか。本にでておる指定位置と言うのは出鱈目らしい。正しき原本を見ねば精確に言えぬ。ガレの書いた図がなくては議論できぬけれど
も、計算から得た位置と本に出ている発見位置をBonnの図に示せば次の如し。

(写真)

×ルヴェリエの推定位置
〇海王星発見の位置
△図説天文講座に出て居る推定位置

< 4.にもどる 6.にすすむ >

このページのトップへ