更新日 2023.12.1
11月5日 盛岡市上田、盛岡精機製作所に勤めておる金子慶一という青年が先日役所に見え、自分で6インチ鏡を作りて火星 木星の観測をしているとて、その写生図を見せらる。頗るよく見ておる。因って、この日午後2時半発汽車にて盛岡に行き、精機製作所に5時頃着く。場所は上田にて、盛岡放送局よりも尚10丁ばかり上なり。製作所にてBlock gaugeブロック・ゲージ製作のことを説明せらる。Zeiss製の測定機数台、およびinterferometer(干渉計)による測定機もあり。ゲージの中、ブロック・ゲージは特殊鋼にて長さ30ミリ位、厚さいろいろあり。表面の平面度はガラス製Test plane(試験用平面)にて干渉により試験す。
金子君は、マウンチング未製のため、木製筒をそのまま外に取り出し観測す。平面は、Block gaugeを凸面に磨いたものを比映試験すると言って見しが、平面の悪いため像よくなし。そこで、工場に行き磨き直す。
まだ 凸 なるも、これを試験に使用せんとせしが、時間無きため自分は9時30分頃辞去す。
6インチf=145cm、アイピース12.5mm 116倍を用いて火星を見て、図を作ると言うに至りて驚いた。
金子君は横に縞が見える写生が出来ると言う。
プレアデスは月無き夜13個を見、土星では5個の衛星を見ると言う。5個の衛星と言えばタイタンおよびカッシニ発見の4個のことである。
土星の環に於いて、外側の環には図の如きデコボコがエンケ分点に見えると言う。
116倍位でそれが見えるとは殆ど想像も出来ない程よい目を持っていることは確かである。天文観測に熱中すれば必ず大成するものと思われる。
息(むすこ)も日本の大学の天文台等に入っては、時間的に又、好まざる仕事に使われて結局天文熱が冷却するから、どこ迄も自己の立場を自由に観測するとよい。
この金子君10cm鏡の試験をしてもらいたいとて頼まる。
11月17日 これを試験す。殆ど平面なるも中央に近く小さき山あり。
1/2インチ (12.5mm)アイピースにて像を見るに頗る鮮明なり。
f1:8.6 なり。
焦点の内外像も殆ど一様に見ゆ。像の縁は内外ともに鮮明を欠きボヤとなるも一様なり。
これと比較すべく自分の8インチ鏡の試験をなす。
左図の如く縁高にして1/2インチ アイピースにては内像甚だしく不鮮明なり。
やはり金子鏡の如く球面に作るを可とす。
また前に榊氏のために作りし鏡も試験するに、2F=192cm f=1:9.6。
左図の如く全くものにならず。アイピースの試験もダメなり。
反射鏡は必ず球面に作れば成功と思えばよし。
25cm鏡も球面に修正して見るを可とす。
尚、6インチ写真用のものを一旦球面に作りて試験すれば、反射鏡に於ける球面の使用範囲が決まるわけである。
(註:この15cm鏡は既にパラボラに修正してあるから更に修正する必要なし)。
11月26日 この夕方、25cm鏡にて土星を見る。まだ高度45°位の低き時であったから、充分seeing(シーイング)がよくなかりしも、時折瞬間的にseeingのよいときには8インチに絞れば頗るよく見ゆ。内側のcrepe ring(ちりめん環、紗環) もかすかに認めることを得。倍率140倍、200倍の倍率をかけ得るようなseeingが全くないため、どうも良くない。
○○をよく見えると思う。
昭和16年12月8日午前11時59分、大日本帝国天皇陛下は、英米両国に対し宣戦を布告し給う。一億国民は国家の総力を上げて戦勝の一途あるのみ。大敵たりとも恐れず、小敵たりともあなどらず。空襲にあっても沈着にして防空につとめ、災害を最小限度に留めしめ、もし不幸にして大都市に在りて一家離散の事あるとも、あえてうろたえず、一死もって国に盡さんことを期す。
昭和16年12月9日
大詔の降ると同時に、帝国海軍は上海にありし英砲艦一隻を撃沈し、米砲艦を一隻捕獲す。又帝国海軍は海軍船、空隊および特殊潜水艦よりなる一隊を以てハワイを攻撃しPearl Harborにありし米軍太平洋艦隊を撃滅せり。
10日には、マレー半島沖に於いて英国主力戦艦プリンス オブ ウエールズ および レパルスを撃沈す。
その後、戦況は順調に進みホンコン攻撃、マレー上陸、フィリピン上陸、グアム島占領等、相次いで戦果拡大、我本土には未だ敵飛行機を見ず。
(12月18日)
12月23日 自分が米国から帰るとき、サンフランシスコの古物屋で買ったセキスタント(六分儀)は、最少弧の10″まで読めるがために買ったのであるが、試験の結果は、vernier(バーニヤ=副尺)がcircle(サークル=円)と合わない。或は修繕のとき勝手に取りかえたかとも思われるし、もしこれをそのまま使用しておったとすれば、どうして使用し得たか疑問である。
Circle 30°以下ではvernirが一致しない。それでIndex(インデックス=指針)が充分わからない。Indexさえ大体正確にあれば使用し得るとは自分が調べた所である。そこで、研究の結果Indexの読み取りに修正値を与えることにした。
セキスタントIndexの読取修正表を作る。これを使用して本日午前観測せしに、経度は30秒程度迄正しくなるようになった。そこでこのセキスタント使用上のIndexのきめ方に就いて述べる。
先ず太陽の一方のIndexを観測しIndexを読み取る。次に他のIndexのcontact(コンタクト=接触)によるIndexを読みとる。
さて、この2つの読み取りに於いて、大抵1つの観測はvernierがcircleに一致する、それを基礎となす。これに修正表の修正値を加う。又、別の観測にも若しvernierが一致した時ならば直ぐ修正数をほどこせば両観測は正しいものとなるが、一方の観測がvernierがcircleに一致しないときは一方の一致せる基礎の読取の修正した値よりして、太陽の半径が16′+ になるように修正値を加える。それにより2つの観測が修正せられし値となる。そこで、I = 360 ?1/2(R1 + R2)よりIndexを求める方法である。今の所、Indexの値は大体4′程度である。
セキスタント Index の読取修正表
D 10″= 2′00″
左の表に於いて 0′~10″迄は、vernierがcircleに一致せる所の読取であって、vernierは10′所では目測8′位に当る。目測8′に対するvernierを10′に読めば実際修正なしの9′となしても大体よい。
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